笹井宏之『えーえんとくちから』

 読了日2020/07/17。

 穂村弘の解説が秀逸。「私やあなたや樹や手紙や風や自転車やまくらや海の魂が等価だという感覚。それは笹井の歌に特異な存在感を与えている。何故なら、近代以降の短歌は基本的に一人称の詩型であり、ただ一人の〈私〉を起点として世界を見ることを最大の特徴してきたからだ」。短歌史も踏まえて作者の転生やアニミズム的感覚といったテーマを意味づけている。

「祝祭のしずかなおわり ひとはみな脆いうつわであるということ」

「「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい」

「食パンの耳をまんべんなくかじる 祈りとはそういうものだろう」

「わたがしであったことなど知る由もなく海岸に流れ着く棒」

「「いま辞書とふかい関係にあるからしばらくそっとしておいて。母」」

「吊り革に救えなかった人の手が五本の指で巻き付いている」

「廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは」

「眠りから覚めても此処がうつつだといふのは少し待て鷺がいる」

「こころからひとを愛してしまった、と触角をふるわせるおとうと」

「気のふれたひとの笑顔がこの世界最後の島であるということ」