2012-01-01から1年間の記事一覧

資料展「検閲の基準 ―発禁になった本、ならなかった本―」(千代田区立図書館)

千代田区立図書館で興味深い展示を行っている。 戦前の出版検閲を語る資料展「検閲の基準 ―発禁になった本、ならなかった本―」 http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/guidance/display_naimushoitaku2012.html 戦前の日本では、内務省があらゆる出版物の検閲…

『太宰治全集7』

太宰治全集〈7〉 (ちくま文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1989/03/01メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (8件) を見る 『津軽』『惜別』『お伽草紙』の三編が入っている。『惜別』は時局の強い影響下に書かれたものだが、…

『太宰治全集6』

太宰治全集〈6〉 (ちくま文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1989/03/01メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る この巻には「右大臣実朝」が入っている。高校時代に読んで以来、最も好きな作品の一つだ。…

日曜美術館「沈黙の風景 〜松本竣介 ひとりぼっちの闘い〜」

先週12月16日放送の日曜美術館は、洋画家・松本竣介(1912-1948)についてであった。 沈黙の風景 ~松本竣介 ひとりぼっちの闘い~|NHK 日曜美術館 松本竣介 - Wikipedia 実はこの放送を見るまで、彼の名を知らなかった。ただ、代表作「立てる像」は高校…

読書会が終わる

太宰治『正義と微笑』についての、簡単な報告が終わった。夏休みからずっと付き合ってきた対象だけに、終わると何やらもの寂しい。

句会してみました

人に誘われて、始めて句会なるものに参加してきました。 季題「寒さ」 午前六時 寒夜ひそめる 腕時計 さよならと マスク笑いて 夕惑い 手袋で ページをめくる もどかしさ 窓寒し 頬杖つけば 天使が通る 薄ら日に いのちをつなぐ つぼみかな今はじめる人のた…

シンポジウム「文学は生きているか ―断崖に立つ文学研究―」

熊本県立大学文学部主催で興味深いイベントがある。 【日時】平成24年12月8日(土) 午後1時30分〜午後4時00分 【会場】熊本県立大学 中ホール 【内容】パネルディスカッション 〈コーディネーター〉半藤英明(熊本県立大学副学長) 〈パネリスト〉 石原千秋…

橙大学2012「大人が読む児童文学」

熊本文学隊主催の催しがある。こんな愉快な「ひみつけっしゃ」が密かに活動してたとは知りませんでした。 「第4回 『赤い蝋燭と人魚』を読む 人間は変わり、信仰も変わる」 【日時】12月1日(土) 18:30開場 19:00開演 【会場】orange/橙書店 【講師】難…

『太宰治全集5』

この巻から「新郎」「十二月八日」などアジア太平洋戦争の時代を感じさせる作品が目立ち始める。時局にふさわしくないという理由で全文削除されたという「花火」の結末は、家庭の悲劇という点でカフカ『変身』を思い起こさせた。同じ時期に、青春小説の代表…

『太宰治全集4』

この巻では、しみじみとした佳品が目立つ。特に清らかな感じのヒロインが多い。太宰治全集〈4〉 (ちくま文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1988/12/01メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見る「きりぎりす」(『新…

第17回「草枕」国際俳句大会

【日時】11月17日(土) 午後1時〜午後4時30分 【会場】熊本市総合体育館・青年会館 (入場無料) 【内容】当日投句、講演会、俳句の部・俳画の部の表彰、講評・質疑など 講演「短詩型の魅力 −人生と表現−」伊藤一彦(歌人、若山牧水記念文学館館長) 大…

講演と鼎談「ハーン五高時代の『講義ノート』の新発見」

ラフカディオ・ハーンの五高での講義ノートが発見され、それに関連する催しがある。鶴屋南側の小泉八雲旧邸は、熊本に来た最初の頃に行ったなあ。 【日時】2012年11月17日(土) 13:00〜16:30 【会場】桜の馬場城彩苑多目的交流室(ホール) 【内容】 ・講演「ハ…

東京演劇集団風「Touch 〜孤独から愛へ」

東京演劇集団風によって上演された「Touch 〜孤独から愛へ」(原題 Orphans 孤児たち)を見る。舞台は北フィラデルフィアの荒れ果てた住宅の一室。両親を失った孤児の兄弟、トリートとフィリップが暮らしている。兄のトリートは盗みや恐喝で生計を立てており…

安部公房の未発表短編原稿見つかる

タイトルは「天使」。満洲からの引き揚げ船内で執筆されたらしい。「精神を病んだ主人公が天使となって病室を抜け出し、妄想の中で天使の国をさまようという内容」で、閉塞感が『けものたちは故郷をめざす』に通じる。今月7日発売の『新潮』12月号に掲載さ…

サイード「故国喪失についての省察」

このエッセイは、次のように書き出される。 故国喪失は、それについて考えると奇妙な魅力にとらわれるが、経験するとなると最悪である。人間とその人間が生まれ育った場所とのあいだに、自己とその真の故郷とのあいだに、むりやり設けられた癒しがたい亀裂。…

九州をめぐる100冊

西日本新聞で2006〜2008年に「千年書房・九州の100冊」という興味深い企画を行っていたらしい。 http://www.nishinippon.co.jp/nnp/book/kyushu100/2008/06/post_111.shtml 熊本ゆかりの著作で挙がっていたのは、以下の10冊。 ・安永蕗子「青湖」 ・徳富蘇峰…

サイード『故国喪失についての省察1』11〜14章

以下を読了。とりあえず覚書。 ・第11章「批評の未来」1984 批評行為そのものについての論評。「移動する理論」とも関係深い。 ・第12章「故国喪失についての省察」1984 冒頭にあるように、20世紀は他に類例を見ない「大移住時代」であり、それは文学も含ん…

サイード『故国喪失についての省察1』7〜10章

以下を読了。第10章以外は書評の形で、いずれも対象への辛辣なコメントがなされている。これまでの章と異なり、アメリカを中心とした西洋マスメディアへの批判というアクチュアルな問題意識が表明されている。 ・第7章「どん底への観光旅行――ジョージ・オー…

アルビレオ特急公演「4A.M.」

先日、夢マート前を通っていたら、いつも閉まっている「かね屋」が開いていて、何かやっていた。置いてあったチラシを見ると、近々お芝居の公演があるらしい。(会場は「かね屋」ではなかった。) 【日時】 ・2012年11月23日(金)18:00開演 ・24日(土)13:…

サイード「ヴィーコ」

第6章「ヴィーコ――身体とテクストの鍛練=学問(ディシプリン)に関して」1976○『新しい学』におけるヴィーコの洞察 人間の現実を論じるにあたっては、たんなる論理的意味の外部に、何か向き合って取り組むべきものがつねに存在するという洞察。この何もの…

熊本市現代美術館「生きる場所 ボーダーレスの空へ Sky over My Head」

熊本市現代美術館開館十周年記念イベントとして、下記の展示が開催中。 熊本市現代美術館|熊本市現代美術館 開館10周年記念展 生きる場所 ボーダーレスの空へ Sky over My Head 【会期】2012年9月29日(土)〜12月9日(日) 【出展者】栗林隆、塩田千春、照…

サイード『故国喪失についての省察1』2〜6章

以下の各章を読む。個別の作家論的な内容だ。 ・第2章「未解決のアマチュア」シオラン論 ・第3章「終わりなき内戦」T・E・ロレンス論 ・第4章「偶然性と決定論のはざまで」ルカーチ論 ・第5章「コンラッドとニーチェ」 ・第6章「ヴィーコ」 長くなる…

『太宰治全集3』

ずいぶん長くかかったが読了。全体に明るいトーンの作品や、意欲的な試みのものが多く、中期の代表作「走れメロス」「駆込み訴え」や、女性一人称語りの「皮膚と心」、メタフィクション的な「女の決闘」が収められている。太宰治全集〈3〉 (ちくま文庫)作者:…

古書籍即売会の収穫

平日行けなかった鶴屋の即売会にようやく行ってきた。熊本関連の郷土書が充実していたのはもちろんだが、それ以外にもいろいろ掘り出し物があった。 本日の収穫 ・中野重治『鷗外 その側面』(ちくま学芸文庫) ・有吉佐和子『海暗』(角川文庫) ・堀田善衛…

「熊本城下町大遊戯2012」開催

市内西部の新町・古町で、町屋を舞台にした演劇「密会 〜河上彦斎〜」が上演される。以下は主催されている「特定非営利活動団体アートスイッチ」のブログ。 熊本城下町大遊戯 2012: 櫻井栄一 Sakurai Eiichi 佐久間象山を暗殺した男として、「幕末三大人…

古書籍即売展

第43回古書籍即売展が開催される。 【日時】9月26(水)〜10月2日(火) 【会場】鶴屋百貨店 東館6F シーズンメッセージ 【参加店】舒文堂河島書店(熊本市中央区)・天野屋書店(熊本市中央区)・ほると書房(玉名市)・魁孔舎(熊本市西区)・グエル書房(…

サイード「受肉の迷宮――モーリス・メルロ=ポンティ」

メルロ=ポンティ論。「序」では「メルロ=ポンティにわたしが感銘を受けたのは、絶対原理なき現実、絶えず経験される一瞬一瞬の統合としての言語、物質の世界に一度かぎり具現化される精神、それらが織りなす困難な状況――この状況のなかで、わたしたちは、…

絶望の中の希望:V・E・フランクル『夜と霧』

夜と霧 新版作者: ヴィクトール・E・フランクル,池田香代子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2002/11/06メディア: 単行本購入: 48人 クリック: 398回この商品を含むブログ (369件) を見る筆者の態度 ここに語られるのは、何百万人が何百万通りに味わった…

サイード「批評と故国喪失」

故国喪失についての省察〈1〉作者: エドワード・W.サイード,Edward W. Said,大橋洋一,和田唯,近藤弘幸,三原芳秋出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2006/04/07メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (11件) を見る序「批評と故国喪失」より …

『太宰治全集2』

ようやく読了。「創世記」「二十世紀旗手」「HUMAN LOST」のような、実験的文体というか、切れ切れの意識の流れを書きとめたような作品から、「燈籠」「満願」「富嶽百景」「黄金風景」のような、小説としてがっちりした結構を持つ作品まで、作風の振幅の大…