2013-01-01から1年間の記事一覧

句会第十三回

季題は「雪」。 初雪の遠さをはかり耳すます 初霜を念入りに踏む子らの頬 しわぶきの届く狭さに二人居て

戦争前夜に―中野重治「司書の死」

子供に甘かったマルクスが、ふたりの娘から冗談に問われて答えていることがある。「あなたの好きな仕事はなんですか。」「本食い虫になることだ。」こう答えている。しかし彼は、「あなたの好きな徳行は?」と問われて、「質朴だ。」と答えている。「あなた…

中島敦の転居

九州大学の過去問を見ていたら、2010年は黒宮一太『ネイションとの再会』からの出題だった。冒頭でハイデガー研究者ウーテ・グッツォーニの著作『住まうこととさすらうこと』を引用している。 さすらうことは、動いていること、途上にあることである。さすら…

坂口䙥子のこと

坂口䙥子(さかぐちれいこ 1914〜2007)に関する研究発表を終えた。八代に生まれ、台湾に渡って結婚し、作家として楊逵や張文環から評価された。敗戦前後を台湾先住民の居住地である〈蕃地〉で過ごし、戦後、熊本に帰郷してからそれらを舞台にした小説を次々…

句会第十二回

季題は「時雨」。 白頭翁しぐれて重き荷を背負う 星は冴えレジュメは白紙夜の底 団欒の果てて自室の息白し 漱石忌文も開かず黙りゐて 神の留守思はぬ名前言うてみる

句会第十一回

季題は「紅葉」。 初紅葉まだ恥知らぬ頬を染む 天窓へ垂直に降ってくる銀河 肝腎の文句が化けて出る夜長 秋風はレンズとレンズの隙間吹く 夫婦茶碗絶妙に隔てて枝豆もむく

原田正純『豊かさと棄民たち―水俣学事始め』

昨年亡くなった原田正純氏の著書。言うまでもなく長年にわたり水俣病に関わって来られた医師であり、市内の大手書店では、必ず氏の著書のコーナーがある。関西からこちらに越してきて、地元における意識の持ちようの強さを感じた。テレビのローカルニュース…

古書籍即売会へ行く@鶴屋

今年も古書籍即売会のシーズンがやって来た!! てか忘れてた。古本屋さんで、店主さんと他のお客さんとの会話を小耳にはさんで思い出したのだ。 会場は鶴屋本館8F。今回は熊本マンガミュージアムプロジェクトとも連動しているらしく、奥に熊本ゆかりの漫画…

差別に対する中野重治の感想

連休の22日には東京で「差別撤廃東京大行進」が行われた。 ヘイトスピーチ(憎悪表現)をはじめ、人種、国籍などあらゆる差別に反対するデモ「差別撤廃 東京大行進」が22日、東京・新宿で開かれた。約2000人が「差別をやめよう 一緒に生きよう」と声を…

句会第十回

季題は「彼岸花」「流れ星」(いずれも秋)。 ひとを打ちし我が手は朱し彼岸花 星墜ちて地に還りたいと願う むき玉子呑み下しかねて初嵐 かなかなの啼くまで待っているこども 彼岸花立ち笑ひたる夕木立

句会第九回

季題は「晩夏」。 じゃんけんのグーを忘れてきた晩夏 見下ろす我をかまきりがおどかしてをる 冷蔵庫のじゃがいも芽吹く残暑かな 長き夜にページの尖りゆく倦怠 花火玉落ちたしじまを息つめる

植木枝盛「世に良政府なる者なきの説」

土佐の自由民権家・植木枝盛の著述。 植木枝盛 - Wikipedia 早大法学部教授・水島朝穂氏の記事が興味深かった。 http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20070423.html 私達が「良政府」と言われて思い浮かべるのは、政治を任せっきりにしても構わないよう…

句会第八回

季題は「ゼリー」。 ゼリーに陽を封じて飛行船見に行く おぼつかぬ手で願い書く星祭 角毎に子らたわむるる地蔵盆 河童忌に洗う穂先の水黒き 孕み妻の腹に掌翳す原爆忌

句会第七回

季題は「虹」。空梅雨が終わって水不足の心配はなくなったが、日々雨は少しうんざりだ(勝手なもん)。 親虹の閉じきらぬ弧を指で描く →「親虹」は造語で、二重虹の外側の虹を、親に見立てました。場合によっては綺麗な二重のアーチを描くこともあるようです…

句会第六回

遅ればせながら5月の句会の記録である。季題は「初夏」。 ガラス越しに初夏をためらう微炭酸 →上五の位置関係があいまい。はじけそうではじけない雰囲気は出ているので、最初を工夫しては、とのこと。 日焼子を抱けば潮の香微かなり。 バス停で素足伸ばせば…

国家による教科書介入の第一歩

弁護士・宮武嶺氏のブログ「Everyone says I love you !」で、最近の教科書をめぐる無視できない動向が指摘されていた。自民党の「教科書法」は教科書の内容に直接介入するもので表現の自由、教育の自由を侵害する - Everyone says I love you ! 自民党の一…

熊本初のブックフェスティバル「Bon Kuma Hon」

いつも句会でお世話になっているお店で、ブックフェスティバルのチラシをもらってきた。称して、「本熊本」(bon kuma hon)!! イエローを基調にしたチラシでは、マスコットキャラのホンちゃんとぼんくまが、木の下でくつろぐイラストがあしらわれている。全…

句会第五回

季題は「蝶」。自分で言い出したのにめちゃくちゃ難儀した。 蝶の昼娘転(まろ)びて残像す →「まろぶ」という優しい表現は合っているが、「残像す」は少し硬いのではという意見。多分「残像」が使いたかったんでしょうね。ていうか、困ったら娘ネタに走りす…

熊日本社へ行く

県立図書館で昭和30年頃の熊本日日新聞をマイクロフィルムで見ていたら、原紙が破れていたり夕刊が欠けているところがあったので、レファレンス係に尋ねると、熊日が独自にデータベース化しているので、もしかしたらそちらでちゃんとした紙面を見ることがで…

異界の義経――古浄瑠璃「義経地獄破」から平野耕太『ドリフターズ』まで

ドリフターズ 3 (ヤングキングコミックス)作者: 平野耕太出版社/メーカー: 少年画報社発売日: 2013/03/18メディア: コミック購入: 9人 クリック: 71回この商品を含むブログ (120件) を見る 平野耕太の漫画『ドリフターズ』は、志半ばで不慮の死を遂げたり消…

句会第四回――付けたり:映画「恋は五・七・五!」感想

季題は「桜」。オーソドックスだけど、いざ作るとなると難しい。 入園日爺は桜も連れ帰る →助詞「も」が効いているとの評。 図書館の余熱冷まして白木蓮 →本好きらしい句とのこと。県立図書館前の風景ですね。 啄木忌隣で家を売る電話 →「○○忌」という季語は…

写真展 淋漓「rinri」

「かね屋」はしばしばアートスペースとして貸し出されているらしく、昨日通りかかったらたまたま写真展をしていた。 ダンサー白木聖子さんとフォトグラファー児島由季子さんのコラボレーション。タイトルの「淋漓」とは「血や汗がしたたる様」であり、展覧会…

今年最初の夜桜

『池田澄子句集』

日常に使う口語で俳句を作るのは、文語より難しいと前エントリーで取り上げた千野帽子の著書にあった。その著者が、「私を俳句の世界にかっさらった句」と述べるのが、池田澄子の次の句。 じゃんけんで負けて蛍に生まれたの 文字通り、蛍の述懐というフィク…

「ラフカディオ・ハーン顕彰作品コンクール」と山田太一のドラマ

熊本八雲会主催の「ラフカディオ・ハーン顕彰作品コンクール」表彰式が熊本大学構内の五高記念館で行われた。知人が受賞したので参加する。五高記念館も初めてなので見学してきた。 ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)顕彰 作品コンクール | 八雲会 | The Hea…

千野帽子『俳句いきなり入門』――自己愛から解放されるための俳句

俳句いきなり入門 (NHK出版新書)作者: 千野帽子出版社/メーカー: NHK出版発売日: 2012/07/06メディア: 新書購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (11件) を見る 著者・千野帽子は俳人ではなく文筆家。「ガーリッシュ」三部作で記憶していたので、「…

句会第三回

季題は「春」。自分で出した題にも関わらず今回は低調。せっかく句会で色々講評いただいたので、併せて記録してみる。 爪先に 春菜のかおり 新しき おたまじゃくし やさしさをもてあます →上五と後の繋がりが悪いという指摘。「蝌蚪」に改めては、という案も…

『太宰治全集8』

太宰治全集〈8〉 (ちくま文庫)作者: 太宰治出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1989/04/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 4回この商品を含むブログ (8件) を見る「パンドラの匣」(『河北新報』1945・10・22〜46・1・7 単行本 河北新報社 41・6・5)/「…

熊本県立図書館「ふるさと熊本ゆかりの著作物展」

熊本県立図書館では、郷土熊本に関する出版物及び熊本県内に在住又は県出身者の著作物を収集・保存しています。 出版文化の隆盛は、地域文化のバロメーターの一つと言われており、このたび、平成24年中に刊行された郷土関係出版物展を開催します。(県庁HP…

フロイト「喪とメランコリー」

人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトス (光文社古典新訳文庫)作者: フロイト,中山元出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/02/07メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 85回この商品を含むブログ (44件) を見る フロイトが1917年に書いた論文。原題は"Trauer…