ジョージ・オーウェル『一九八四年』

 読了日2015/08/15。

 主人公を通して、間断なく張り巡らされた二重思考の網目をすり抜けて浮かび上がる記憶の喚起力を描く。「頭蓋骨の内側に残されているほんの数立方センチメートル以外、自分のものと言えるものはない」「もし党が過去に手を突っ込み、この出来事でもあの出来事でも、それは実際に起こっていないと言えるのだとしたら」絶えざる歴史修正の内に甦るのは、かけがえのない人々の「無力さを示す仕草、抱擁、涙、死にゆくものにかけることばといった」「それ自体で価値」を持つ些細な身ぶりや表情の記憶。過去を記録するのに言語は十分な手立てではなく、権力に都合良く改変されて歴史となる。だからこそウィンストンの人間性の根拠としてまとまった形を持たない切れ切れの夢やイメージが重要なのであり、最後に権力者が手を付けるのも彼の精神なのだ。