文学

赤坂真理『東京プリズン』

東京プリズン (河出文庫 あ 9-4) 作者:赤坂 真理 河出書房新社 Amazon 読了日2014/08/16。 この小説の主題の一つは「通訳」(翻訳)である。「天皇の戦争責任」についてディベートをするよう求められた主人公は、英文資料を通じて近代史を探る中で「歴史用語…

ジョージ・オーウェル『一九八四年』

一九八四年 (ハヤカワepi文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,高橋 和久 早川書房 Amazon 読了日2015/08/15。 主人公を通して、間断なく張り巡らされた二重思考の網目をすり抜けて浮かび上がる記憶の喚起力を描く。「頭蓋骨の内側に残されているほんの数立方セ…

ジョージ・オーウェル『動物農場』

動物農場 (角川文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,高畠 文夫 KADOKAWA Amazon 読了日2013/07/30。 「動物主義」を掲げて農場主を追放した動物たちの革命が、どのようにして豚たちのような独裁者の登場を許していったかが、一般動物(=民衆)の目線で描かれる…

小泉八雲『日本の面影 ラフカディオ・ハーンの世界』

日本の面影: ラフカディオ・ハーンの世界 (岩波現代文庫 文芸 58) 作者:山田 太一 岩波書店 Amazon 読了日2013/03/09。 ニューオリンズ、松江、熊本、東京と移り住みながら、日本から次第に失われていくものに目を向け、ペンの力で形に表そうとしたハーン。…

東郷隆『名探偵クマグスの冒険』

名探偵クマグスの冒険 (静山社文庫) 作者:東郷 隆 静山社 Amazon 読了日2013/03/20。 知の巨人・熊楠は突出したキャラクター性もありミステリにはうってつけの人物だ。他には古山寛原作・ほんまりうの漫画『漱石事件簿』が同じ英国留学時代を扱っていた。本…

笹井宏之『えーえんとくちから』

えーえんとくちから (ちくま文庫) 作者:笹井宏之 筑摩書房 Amazon 読了日2020/07/17。 穂村弘の解説が秀逸。「私やあなたや樹や手紙や風や自転車やまくらや海の魂が等価だという感覚。それは笹井の歌に特異な存在感を与えている。何故なら、近代以降の短歌は…

豆塚エリ『濡れた髪を乾かさない君は嘘つき』

2017年6月1日初版発行。発行所・こんぺき出版(大分県別府市元町)。 konpeki.stores.jp 読了日2019/08/09。 ゆふいん文学の森で購入。縦5センチ5ミリ、横約15センチ、厚さ3ミリ弱の、一見しゃれた栞かふせんと見間違えそうな体裁。作者によれば第三弾…

穂村弘『ラインマーカーズ The Best of Homura Hiroshi』

ラインマーカーズ ~The Best of Homura Hiroshi~ (小学館文庫) 作者:穂村弘 小学館 Amazon 読了日2023/01/15。 冒頭の第一首「体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ」は、中学国語教科書にも採られている。三十一文字の僅かな字数で、…

円城塔『これはペンです』

これはペンです(新潮文庫) 作者:円城塔 新潮社 Amazon 読了日2014/08/11。 何かが書かれるためには、書く誰か(主体A)がいなければならない。逆に、書かれたものからは、書いた誰かの像(主体B)が遡及的に浮かび上がるはずである。では書いた主体Aと…

柴田錬三郎『柴錬立川文庫二 真田幸村 真田十勇士』

真田幸村 真田十勇士 (文春文庫) 作者:柴田 錬三郎 文藝春秋 Amazon 読了日2020/08/09。 前作『猿飛佐助』のモチーフだった“出生の秘密”は、ついに敵方・家康にも及び、秀忠は影武者の子だと明かされる。 もっとも「柳生新三郎」に家康の房事を佐助が覗くシ…

柴田錬三郎『柴錬立川文庫一 猿飛佐助 真田十勇士』

猿飛佐助 真田十勇士 (文春文庫 柴錬立川文庫 1) 作者:柴田 錬三郎 文藝春秋 Amazon 読了日2020/08/07。 単行本は1962年文芸春秋新社から(その前に『オール読物』に掲載?)。司馬遼太郎「風神の門」の連載(『東京タイムズ』1961~62)もあり、同時期に二…

五味康祐『剣法奥儀 剣豪小説傑作選』

剣豪小説傑作選 剣法奥儀 (文春文庫) 作者:五味 康祐 文藝春秋 Amazon 読了日2019/03/13。 解説を書いた荒山徹の「剣豪小説の醍醐味は、同等の力量を有する二人が、なぜ一は勝者となり一は敗者となったのか――そのことを、読者をして如何に得心せしめ得るかに…

泡坂妻夫『写楽百面相』

写楽百面相 (新潮文庫) 作者:泡坂 妻夫 新潮社 Amazon 読了日2019/03/22。 寛政の改革による贅沢禁止令で、芝居も文芸も浮世絵も弾圧を受け、江戸文化が委縮していた時代。 『誹風柳多留』の版元の若旦那で、手妻使いでもある色男の二三は、失踪した想い人の…

ひらのこぼ『俳句がうまくなる100の発想法』

文庫 俳句がうまくなる100の発想法 (草思社文庫) 作者:ひらの こぼ 草思社 Amazon 読了日2018/08/04。 「裏返してみる」に始まり「なにも言わない」に終わる100の俳句の型はどれも実践的で、またそれぞれの例句と、そこに付された1~3行程度の鑑賞が簡にし…

『17音の青春 2018 五七五で綴る高校生のメッセージ』

17音の青春 2018 五七五で綴る高校生のメッセージ (単行本) 作者:学校法人 神奈川大学広報委員会 角川文化振興財団 Amazon 読了日2018/08/18。 「高浜虚子の提唱した「俳句には季語がなければいけない」という考え方は過去のものであろう。そういう教…

姜琪東『身世打鈴』

身世打鈴(シンセタリョン) 作者:姜 〓東 石風社 Amazon 読了日2019/10/20。 1997年初版・発行所石風社。作者の姜琪東(カン・キドン)は1937年高知生まれ、97年より福岡在住。「あとがき」に「俳句という表現形式による一人の在日韓国人の自叙伝」であり「パ…

小川軽舟『俳句と暮らす』

俳句と暮らす (中公新書) 作者:小川 軽舟 中央公論新社 Amazon 読了日2023/02/22。 1961年生まれの筆者は本書刊行時(2016)55歳。団塊世代の後発で、就職時を新卒で83年と想定すると、バブル世代の恩恵は受けなかった。ただ就職氷河期(1991~)には既に30…

円城塔『Boy’s Surface』

Boy’s Surface 作者:円城 塔 早川書房 Amazon 読了日2020/03/31。 この作者の場合、執筆より出力といった方が似合いそうなのだが、伊藤計劃との対談で、小説を書く時は構造から考えると述べていた。人間のような内面や主体を持たない構造から自動的に出力さ…

円城塔『文字渦』

文字渦(新潮文庫) 作者:円城塔 新潮社 Amazon 読了日2022/11/12。 「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」という境部さんの言葉は、「文字の霊などというものが、一体、あるものか、どうか」という中島敦「文字禍」のリフレイン。中島…

円城塔『道化師の蝶』

道化師の蝶 (講談社文庫) 作者:円城塔 講談社 Amazon 読了日2019/12/02。 伝説の多言語作家・友幸友幸の存在と、その痕跡を辿る翻訳者「私」の思考とが綯交ぜになって、メビウスの輪を見つめているような眩暈の中に引き入れられる。「仮説と対抗仮説が入り乱…

中山市朗『怪談狩り 市朗百物語』

怪談狩り 市朗百物語 (角川ホラー文庫) 作者:中山 市朗 KADOKAWA/角川書店 Amazon 読了日2023/05/20。 『新耳袋』以来の素っ気ない淡々とした語り口。人の霊と思われるもの、時空の歪みに関するもの、妖怪や魔に属するようなものまで様々な怪異が登場する。…

澤村伊智『ぼぎわんが、来る』

ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫) 作者:澤村伊智 KADOKAWA Amazon 読了日2023/06/09。 「訪問者」「所有者」「部外者」の3章構成で、章ごとに視点が変わる。ある人物の言動が、他者からは全く異なって見えるのが妙味。その互いに食い違…

リチャード・マシスン『地獄の家』

地獄の家 (ハヤカワ文庫 NV 148 モダンホラー・セレクション) 作者:リチャード・マシスン 早川書房 Amazon 読了日2021/11/21。 古書即売会落手本。1973年映画化。昔深夜に偶々テレビを付けたら、ちょうど一番クライマックスで、今は亡き富山敬さんの吹き替え…

シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』

丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1) 作者:シャーリイ・ジャクスン 東京創元社 Amazon 読了日2020/09/21。 香川雅信『江戸の妖怪革命』では、近代における怪異のパラダイム転換について「妖怪や幽霊は、近世においては人間の外部にあって『見えるもの』であっ…

吉田悠軌『一行怪談(二)』

一行怪談(二) (PHP文芸文庫) 作者:吉田 悠軌 PHP研究所 Amazon 読了日2019/05/31。 まさか第二作があるとは思わなかった。個人的には「手話」「マジックショー」「怪人Q」「袋小路」「食べられないもの」「逆再生」「便座」「CM」「漢字」「スマートフ…

吉田悠軌『一行怪談』

一行怪談 (PHP文芸文庫) 作者:吉田 悠軌 PHP研究所 Amazon 読了日2017/08/15。 阿刀田高のショート・ショート、漫画の『不安の種』、実話怪談の『新耳袋』、佐藤弓生『うたう百物語』、倉坂鬼一郎『怖い俳句』など、ある種の「怖さ」と話の「短さ」は極めて…

小野不由美『残穢』

残穢(ざんえ) (新潮文庫) 作者:小野 不由美 新潮社 Amazon 読了日2023/01/03。 本文に解説のある触穢の思想は日本の古典文学でお馴染みだが、本作では触れたら感染する怪異を、「キャリア」(p.250)「ウィルス」(p.256)という表現から分かるように、感染…

小野不由美『ゴーストハント2 人形の檻』

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫) 作者:小野 不由美 KADOKAWA Amazon 読了日2023/05/21。 “人形”と“幽霊屋敷”という二大テーマを複雑に融合させ、当初はポルターガイスト現象と思われた怪異が、掘り起こすに連れて思わぬ因縁を露わにする。第2巻に入り探…

小野不由美『ゴーストハント1 旧校舎怪談』

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫) 作者:小野 不由美 KADOKAWA Amazon 読了日2022/12/26。 解説で池澤春菜が述べているように、超常現象を扱うオカルトと論理性を重んじるミステリは意外に相性が良い。この怪異/事件の原因/犯人は?と追及していく面…

坂口䙥子のラジオドラマ

古本屋で手に入れた『熊本放送』1963年8月号に坂口䙥子の随筆「私と熊本放送」が載っていた。RKK(Radio Kumamoto Kabushikikaisya)創立10周年を記念した各方面の著名人による寄稿中の一篇。 熊本放送劇団の第1回放送が、坂口の「妻の旅路」というラジオ…