柴田錬三郎『柴錬立川文庫二 真田幸村 真田十勇士』

 読了日2020/08/09。

 前作『猿飛佐助』のモチーフだった“出生の秘密”は、ついに敵方・家康にも及び、秀忠は影武者の子だと明かされる。

 もっとも「柳生新三郎」に家康の房事を佐助が覗くシーンがあるし、幸村が見抜いたようにこの話自体謀略の可能性もある。ただし、もしこれが作中の事実なら、豊臣秀頼も塚原彦四郎の子という話だったので、豊臣・徳川の後継者は、共に父の血を引いていないことになる。だとすれば、彼らが天下を握るために膨大な血を流した大阪の陣は何だったのか、と虚無的にさえ感じる結論だ。

 この大義の明らかでない戦で、ただ一人、戦人として己を全うせんとするのが真田幸村である。彼は

「日本だけを、墳墓の地と思いなされているのが、そもそも、大まちがいと存ずる。……御一同には、東に亜米利加大陸あり、西に欧羅巴大陸あり、北におろしや、南にわが日本に数倍する島国が無数にあることをご存知であろうか。されば、日本に住むことが窮屈になれば、東西南北、何処の地であれ、望みのままに、海洋を渡るに、いささかの不都合もあるまいと存ずる」

と大局的な戦略眼を持って進言するが聞き入れられず、敗北を悟る。だがそれでも、「自縄自縛と申そうか。この真田左衛門佐は、おのれを嗤い乍ら、滅びるであろう」と、最後まで大坂方で戦おうとする。

 家来の霧隠才蔵は、幸村に逃亡を進めるものの、否定され次のような言葉を残す。この台詞がいい。

「ええい、くそ! 殿、それがしは、今夜より、当城から姿を消し申す。太閤金を、血眼で、探索つかまつる。幾年か先、自力をもって掘り当て、生きのびられた殿の面前に積んでお目にかけ申す(中略)されば、その日まで――ご免!」