2018-01-01から1年間の記事一覧

“町の本屋さん”の存在価値

『東洋経済新報』2018年9月30日、中村陽子氏の記事「札幌の小さな本屋が見せた大きな「奇跡」 くすみ書房のオヤジが残したもの」より。 くすみ書房は札幌市内にあった、“町の本屋さん”という呼び方がぴったりの書店。二代目店主の久住邦晴氏は、経営不振による…

敗戦の日に:ホミ・バーバ「ナラティヴの権利」

「世界市民」「コスモポリタン」という言葉は、ともすればどこにも地に足のついていない空理空論の立場として揶揄的に扱われることがあるのだが、バーバは地域性・特殊性を切り捨てることなく、しかも同時に市民・人権といった概念が切り開いた普遍的・共訳…

東京オリンピックと戦時下日本の共通性

文春オンライン2018/07/31の辻田真佐憲氏の記事「「暑さはチャンス」なぜ東京オリンピックは「太平洋戦争化」してしまうのか?」より。 猛暑の日本列島で、東京オリンピックはいよいよ「太平洋戦争化」しつつある。五輪組織委員会の森喜朗会長は、インタビュ…

山崎雅弘『[増補版]戦前回帰 「大日本病」の再発』

〔増補版〕戦前回帰 「大日本病」の再発 (文庫) [ 山崎雅弘 ]価格: 946 円楽天で詳細を見る 第二次大戦下の日本について批判的に検証した本は枚挙にいとまがない。だが本書の特徴は、当時刊行された文献をできるだけ多く引用し、そこにどのようなロジック…

「アール・ブリュット」の衝撃

先週6月30日、たまたま滞在先の大阪鶴橋のホテルで見たNHKのETV特集「人知れず表現し続ける者たちⅡ」を見た。登場するのは郗万里絵・戸谷誠・平野智之ら三人の作者。いわゆる画壇で華々しく活躍する有名作家ではなく、それぞれが歩んでいるユニークな人生と…

山代巴編『この世界の片隅で』

広島市在住の高雄きくえ氏による「『この世界の片隅に』閉じこめられる日常」(『WOMEN'S DEMOCRATIC JOURNAL femin』2017/7/15)より。高雄氏は、広島で「ひろしま女性学研究所」を運営しているフェミニストである。 つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナ…

レヴィ=ストロース「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。」

通勤途中の坂道で、珍しい鳥の鳴き声を聞いた。今まで聞いたこともないような張のある声で、残念ながら種類までは分からなかったが、季節の移り変わりを感じた。帰宅後、歳時記を繰ってみたが、やはり分からない。「早春に平地で囀り始め、気温の上昇にとも…

「芸術はすべて心である〜知られざる画家不染鉄の世界〜」

3月4日のNHK「日曜美術館」は、「芸術はすべて心である〜知られざる画家不染鉄の世界〜」と題して「幻の画家」と称された不染鉄(1891-1976)の特集だった(2月の再放送らしい)。 去年の夏、東京で初めての回顧展が開かれ、美術関係者の注目を集めてい…

ハンナ・アレント『人間の条件』

難解を以て鳴るハンナ・アレントの主著。現在ではドイツ語版に基づく『活動的生』も翻訳されており、先に出された英語版に著者自身が手を加えただけあって、かなり表現が分かりやすくなっているらしいが、今回は従来のちくま学芸文庫版による。活動的生作者:…

佐川光晴『牛を屠る』

この本を読み始めたきっかけは一本のテレビ番組である。 くまもと県民テレビ(KKT)製作で、日本民間放送連盟賞優秀賞も受賞した「現場発!第41回 “いのち”を伝える 元食肉解体作業員の挑戦」がそれだ。ここで登場する元作業員の坂本義喜さんは、現在は各地の…

白石嘉治「「もの自体」へ」(『図書新聞』2018・1・20)

実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方作者: ジェームズ・C.スコット,清水展,日下渉,中溝和弥出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2017/09/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る ジェームズ・C・スコット『実践 日々のアナキズ…

トーマス・マン/渡辺一夫『五つの証言』

五つの証言 (中公文庫プレミアム)作者:トーマス・マン,渡辺 一夫中央公論新社Amazon1929年 トーマス・マン「マリオと魔術師」執筆、ノーベル賞受賞。 1930年 9月 ナチ党、国会選挙で12議席から107議席へと躍進し、第二党になる。 10月 マン、講演「理性に訴…