五味康祐『剣法奥儀 剣豪小説傑作選』

 読了日2019/03/13。
 解説を書いた荒山徹の「剣豪小説の醍醐味は、同等の力量を有する二人が、なぜ一は勝者となり一は敗者となったのか――そのことを、読者をして如何に得心せしめ得るかにある」という言葉に釣り込まれて読んだ。

 「鷹之羽」「雪柳」「無拍子」「青眼崩し」「浦波」「畳返し」「八重垣」など、いわくありげな名のみ残り実態は明らかでない秘剣について、それを体得した武芸者達の一瞬の勝負に至るまでを描いた短編集。

 奥儀を会得したい、勝ちたいという情念に突き動かされて、人物達は己の全てを賭けた勝負に出る。ハッピーエンドは「浦波」(部分的に「鷹之羽」)だけで、他は一方の敗北=死を省筆した淡々とした筆致で描いて終わる。

 どれも出典は柳生家の伝書「旅不知」からという、架空の書物からの引用という体裁を取っているのだが(柴錬立川文庫のようなもの)、「将軍家師範となった柳生流が、その兵法の万全を期するため、或いは何か他に目的があって、他流の奥儀を究めようとして、書かれたもの」という設定が伝奇的である。