姜琪東『身世打鈴』

 読了日2019/10/20。

 1997年初版・発行所石風社。作者の姜琪東(カン・キドン)は1937年高知生まれ、97年より福岡在住。「あとがき」に「俳句という表現形式による一人の在日韓国人の自叙伝」であり「パンチョッパリ(半日本人)と呼ばれる男の精いっぱいの抗いの記」とある。

 「抗い」とは民族的アイデンティティ喪失への抵抗だろう。「韓国人の私が日本語で考え、話し、書くという行為は決して自然な姿ではない」が「この不自然な姿こそが私の姿そのもの」という。「通名」「外国人登録」「永住権」「帰化」「帰国」など在日韓国人の生活で感じる民族意識と、日本の伝統的な季語が、時に葛藤しながら一句に混在する。

 「ビール酌むにつぽん人の貌をして」

 「宿命や吾に国籍蚊に羽音」

 「霾や『在日』てふ語のざらざらす」

 「祭太鼓われ他国者と思ふ日ぞ」

 「鳳仙花はじけて遠き父母のくに」

 「父の意にそむき日本の注連飾る」

 「ハングルの落書ありぬ梅雨の壁」

 「ひぐらしや嬰に添ひ寝して帰化迷ふ」

 「迎火の路地の奥より身世打鈴」

 「『哀号』と口癖の母餅焦げても」

 「春寒く한글(ハングル)学ぶ白髪かな」