植木枝盛「世に良政府なる者なきの説」
土佐の自由民権家・植木枝盛の著述。
植木枝盛 - Wikipedia
早大法学部教授・水島朝穂氏の記事が興味深かった。
http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20070423.html
私達が「良政府」と言われて思い浮かべるのは、政治を任せっきりにしても構わないような、放っておいても良い政治をする政府のことだろう。それは理想的だ。私達は政治について一切考える必要がなく、政府にすべて預けておけばいいのだから。
だが植木は、「政府」というものは、そもそもそういうふうに全幅の信頼を置くべきものではないと主張する。
人民は政府をして良政府ならしむるの道あれども、政府単に良政府なるものなきなり。古より人民たる者良政府を望まざることなく、何々の政府は善良なり、何々の政府は悪政なり、畢竟政府は皆かくの如くなりたきものなり(中略)云々と。皆これを要するに、よき御上を望みてしかしてよき御上を得、御上をして善良ならしむるの道を知らず、けだしこれを知恵ある者というべからず。
ある人は社会の成り立ちを一家の如く考え、政府と人民とを親子の如く一般に見做すあり。しかれども決してしからず、その政府と人民とはただその約束を以てするものにして、天然に結び成したる者に非ず。なお商家の主人と番頭との如く、決して主人とその子との如きには非ず。(中略)故に親子の間は天然の愛情なるものあれども、かの政府と人民とは利害を異にすることに付きては、必ず自ら利し、駆逐するの威力あれば駆逐し、乗ずべきあれば乗じ、とても油断はならぬなり。
先ず御覧なさい。古より政府の有様進歩し、法律寛舒に赴き、民権を与え自由を許す等の如きは、決してただその理の明かなるを以て公平虚心にこれをなすものに非ず、ただこれをなさざればたちまちその変を出生し、自ら損害を招くに至らんことを思うてしかるものなり。
それ人は私意なきを免れず、油断すれば大敵の譬の如く、人民にして政府を信ずれば、政府はこれに乗じ、これを信ずること厚ければ、益々これに付け込み、もしいかなる政府にても、良政府などいいてこれを信任し、これを疑うことなくこれを監督することなければ、必ず大いに付け込んでいかがのことをなすかも斗り難きなり。故に曰く、世に単に良政府なしと。
かくの如きが故に、人民はなるべく政府を監督視察すべく、なるべく抵抗せざるべからず。これを廃すれば決して良政美事を得ることなかるべし。
- 作者: 植木枝盛,家永三郎
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