『太宰治全集5』

  この巻から「新郎」「十二月八日」などアジア太平洋戦争の時代を感じさせる作品が目立ち始める。時局にふさわしくないという理由で全文削除されたという「花火」の結末は、家庭の悲劇という点でカフカ『変身』を思い起こさせた。同じ時期に、青春小説の代表作である『正義と微笑』や、抱腹絶倒の「黄村先生」シリーズを書いているのが興味深い(殊に「不審庵」は笑った)。

太宰治全集〈5〉 (ちくま文庫)

太宰治全集〈5〉 (ちくま文庫)

「新郎」(『新潮』1942・1)/「十二月八日」(『婦人公論』1942・2)/「律子と貞子」(『若草』1942・2)/「待つ」(未発表、作品集『女性』博文館 1942・6 所収)/「水仙」(『改造』1942・5)/『正義と微笑』(書き下ろし単行本 錦城出版社 1942・6)/「小さいアルバム」(『新潮』1942・7)/「花火」(『文芸』1942・10 ※全文削除)/「帰去来」(『八雲』1943・6)/「故郷」(『新潮』1943・1)/「禁酒の心」(『現代文学』1942・12)/「黄村先生言行録」(『文学界』1943・1)/「花吹雪」(単行本『佳日』肇書房 1944・8 所収)/「不審庵」(『文芸世紀』1943・10)