小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

 読了日2023/08/02。

 以前読んだ石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』に、ナチの失業対策やアウトバーンの経済的効果、さらに選挙で圧倒的支持を受けたという主張が、歴史学の成果を踏まえてしっかり批判されていた(自分も以前はそのような俗論を鵜呑みにしていた)。本書はQ&A方式でそれらの疑問に答えつつ、さらに個々のナチの政策を、民族共同体の創出という全体像の中に位置づけることで、より理解を容易にしている。政策には創意も実効性もなく、軍拡により国内外の財産を収奪し、プロパガンダで不満の目をそらした。暴力と目くらましがその政策の柱だった。

 歴史学的な実態の解明はもちろんだが、同時に「なぜ私達はナチを過大評価したがるのか?」も併せて考えて行きたい。サブカルチャーへの浸透という点では、佐藤卓己編『ヒトラーの呪縛 日本ナチカル研究序説』がある(未読)。民族協同体についてはモッセ『フェルキッシュ革命 ドイツ民族主義から反ユダヤ主義へ』も参照したい。