熊本の古書店史

  NPO法人くまもと文化振興会という所から、総合文化雑誌『KUMAMOTO』創刊号(2012・12)が発行されていたのを、上通りTSUTAYAで見つけたので興味深く思い、早速買ってきた。
  巻頭言「創刊に際して」によれば、荒木精之の発刊していた『日本談義』の後継を志すものらしい。法人名で検索したが、まだHPやブログは開設していないようである。
  熊本関連本のレビュー「読書ノート」や漱石についての論文も面白かったが、一番関心を持ったのは、舒文堂河島書店の店主・河島一夫氏の「熊本の古書店史あれこれ(1) 戦後、古書籍業・貸本業は協同で」という連載。第1回は、昭和20年代の、戦後間もない熊本の古書店の様子を伝えた内容である。当時は貸本屋と古本屋が兼業していたこと、荒木精之が一時期「梓書房」という古書店を開業していたこと、熊本市内には44店あり、上通りにも「熊本書院」「福士書房」「昭文堂」など数軒あったことが分かった。
  また橋本博「「漫画王国」を生み出した熊本の土壌と県民性」によれば、「戦前から昭和三〇年代まで中心部には貸本屋が密集していた。これら書店、古書店貸本屋が地域の書籍文化コミュニティを形成」していたという。

  京都から来て一番最初に感じたのは、書店・古書店が少なくて寂しいということだった。上通り・下通りには長崎書店・金龍堂まるぶん店・喜久屋・TSUTAYAと、それぞれ個性的な大型店舗が並ぶが、それ以外に町の小さな本屋というのを、あまり見かけない気がする。
  また最近出た『別冊本の雑誌 古本の雑誌』の「日本全国古本屋ガイド座談会」でも、「熊本は少ないですよね」とまとめられており、名前が挙がっているのは舒文堂・天野屋書店・キララ文庫の3軒。とはいえ前者2軒は並木坂に面しており、地方都市の繁華街にある数としては、むしろ多い方なのかも知れない(郊外や市外に出れば、まだ何軒かあるはず)。
  したがって望蜀の嘆なのかも知れないが、この記事から分かるように、全盛期から見ると、やはり書店・古書店の減少は否めないようだ。

  書店が、世の中の最先端の動向や流行に触れる場所だとすれば、古書店は、時代から一度リタイアした、膨大な出版物の地層の一部と出会い、「こんな本が出ていたのか!」と刺激を受ける場所だと思う。
  文化というものは、これまでのストックを土壌にして新たなものを生み出すものだから、熊本の古書店の灯が、今後も消えないでいて欲しい。
  また上記のような、熊本の古書店史の掘り起こしは、地方の出版文化や読書空間の解明に繋がる、とても貴重な仕事だ。