藤原彰『餓死した英霊たち』

 読了日2019/11/21。

 自身中国戦線へも従軍した筆者は、「日本軍の戦没者過半数が戦闘行動による死者、いわゆる名誉の戦死ではなく、餓死であった」という衝撃的な事実から、なぜそのような事態が生じたのかを、参謀による作戦至上主義と兵站・情報の軽視、偏狭な精神主義、人権の無視など日本軍の特質に求める。一方で特権層の専横を許し、他方で滅私奉公を強いる、悪しき日本型組織の典型としての軍隊像が浮かび上がる。それは行き詰まりを見せている今の日本社会にも通じるものだろう。

 個人的には、軽視されていた軍医の地位向上に尽くしたのが、石井式濾水機を発明し、後に関東軍防疫給水部(七三一部隊)部長となった石井四郎という指摘(p.228-)にはぞっとした。

 筆者が兵士の生き死にを左右した食物や衛生に着目した歴史眼から、机上の作戦に耽っていた参謀を批判するのは、「参謀の作戦計画」を「桶狭間の奇襲とかタンネンベルクの殲滅戦とかいうお伽噺で頭が一杯になっていた」と一蹴し、「実際の戦闘は、作戦とか忍者とかは縁のない体質を持った人間によって行われる」と喝破した大岡昇平(『レイテ戦記』)に通じるものがある。