吉田悠軌『現代怪談考』

 読了日2023/03/16。

 六部殺し・口裂け女・コトリバコ・八尺様・コインロッカーベイビー・カシマレイコ・アクトバティックサラサラといった近現代怪談の主要なモチーフの背景に、「子殺し」への恐怖が潜むのではないかと筆者は推定する。別冊宝島の『うわさの本』(1989)『怖い話の本』(1996)を愛読した自分としては、恐怖体験談や怪異譚・都市伝説への考察は非常に楽しめた。我々は何を怖がるのかという疑問の解明には、心理学・民俗学ジェンダー歴史学社会学など多面的なアプローチが可能だとも。

 同時に創作がいかにこれらフォークロア的感性を養分としているかも分かる。夏目漱石夢十夜」と徳田秋声「あらくれ」は六部殺しのモチーフが共通するし、子殺しの母への恐怖では永井豪の「ススムちゃん大ショック」(1971)や伊丹十三の映画「スウィートホーム」(1989)、逆に捨てられた子供から母への憎悪では村上龍コインロッカー・ベイビーズ」(1980)が思い起こされた。探せば筆者のいう「赤い女」に通じるテーマはフィクションに多く存在するに違いない。

 子殺しに纏わる怪談が、かつては父子関係も含んだが(「夢十夜」は父親)、現代では母子に限定されがちだと思う(伊集院光の「赤いクレヨン」も母親)。筆者は冒頭で就活中に母親が乳児を殺害した事件に触れて「現代の男は望まぬ新生児を殺さない。なぜならその子の出産時、父親たる男たちは、いつもどこかに遁走してしまっているからだ。メディアも世間も「子殺しの母」を糾弾するばかりで、逃げた父親たちの行方を探そうとすらしない」(p14-5)と書く。子殺しの罪が母親ばかりに背負わされる非対称性。水子供養や橋迫瑞穂の本も参照したい。