小松和彦『異人論―民俗社会の心性』

 異人殺し・歯を持つ女性器・猿婿入り・マレビト・蓑笠など民俗学的話題を起点に、共同体にとっての他者=異人とは何かを考察した論集。Ⅰでは異人の排除という物語が、民俗社会(共同体)内の均衡を守る機能を持つとされる。Ⅱでは具体的に女性や異類が退治される民話を通して、共同体の彼らに向けた「悪意」が指摘される。Ⅲはマレビト観念が必ずしも神という正(ハレ)の意味だけでなく、共同体からの離脱という負(ケガレ)も持つとする。Ⅳでは内=我々/外=神・妖怪という図式を提示し、また異人像の原型に職人など社会的他者像があるとする。

 異人とは、共同体内の観念(こう言ってよければ共同幻想)の問題なので、「異人とは○○だ」という実体的な定義はできず、「人々は異人を○○のように捉えてきた」という説明しかできない。それは村落のような自己完結的で固定的な社会システムを前提とする。現代のように従来の共同体が解体してしまうと、異人を必要とする社会関係や共有されてきたイメージも消失する。解説で中沢新一が言う「論理性の構造のなかに、事件や歴史性が侵入してきたときに、その構造がどういうふるまいをするか」もその点だろう。今、異人はどこにいるのか。