小松和彦『異人論―民俗社会の心性』

異人論―民俗社会の心性 (ちくま学芸文庫) 作者:小松 和彦 筑摩書房 Amazon 異人殺し・歯を持つ女性器・猿婿入り・マレビト・蓑笠など民俗学的話題を起点に、共同体にとっての他者=異人とは何かを考察した論集。Ⅰでは異人の排除という物語が、民俗社会(共同…

香川雅信『江戸の妖怪革命』

江戸の妖怪革命 (角川ソフィア文庫) 作者:香川 雅信 KADOKAWA Amazon 読了日2021/04/26。 近世の妖怪ブーム分析にフーコー『言葉と物』のアイデアを持ってきた点が本書のポイント。かつては妖怪の出現が凶兆を意味するなど「記号」としての働きを持っていた…

リチャード・マシスン『地獄の家』

地獄の家 (ハヤカワ文庫 NV 148 モダンホラー・セレクション) 作者:リチャード・マシスン 早川書房 Amazon 読了日2021/11/21。 古書即売会落手本。1973年映画化。昔深夜に偶々テレビを付けたら、ちょうど一番クライマックスで、今は亡き富山敬さんの吹き替え…

シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』

丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1) 作者:シャーリイ・ジャクスン 東京創元社 Amazon 読了日2020/09/21。 香川雅信『江戸の妖怪革命』では、近代における怪異のパラダイム転換について「妖怪や幽霊は、近世においては人間の外部にあって『見えるもの』であっ…

吉田悠軌『一行怪談(二)』

一行怪談(二) (PHP文芸文庫) 作者:吉田 悠軌 PHP研究所 Amazon 読了日2019/05/31。 まさか第二作があるとは思わなかった。個人的には「手話」「マジックショー」「怪人Q」「袋小路」「食べられないもの」「逆再生」「便座」「CM」「漢字」「スマートフ…

吉田悠軌『一行怪談』

一行怪談 (PHP文芸文庫) 作者:吉田 悠軌 PHP研究所 Amazon 読了日2017/08/15。 阿刀田高のショート・ショート、漫画の『不安の種』、実話怪談の『新耳袋』、佐藤弓生『うたう百物語』、倉坂鬼一郎『怖い俳句』など、ある種の「怖さ」と話の「短さ」は極めて…

吉田悠軌『現代怪談考』

現代怪談考 作者:吉田悠軌 晶文社 Amazon 読了日2023/03/16。 六部殺し・口裂け女・コトリバコ・八尺様・コインロッカーベイビー・カシマレイコ・アクトバティックサラサラといった近現代怪談の主要なモチーフの背景に、「子殺し」への恐怖が潜むのではない…

小野不由美『残穢』

残穢(ざんえ) (新潮文庫) 作者:小野 不由美 新潮社 Amazon 読了日2023/01/03。 本文に解説のある触穢の思想は日本の古典文学でお馴染みだが、本作では触れたら感染する怪異を、「キャリア」(p.250)「ウィルス」(p.256)という表現から分かるように、感染…

小野不由美『ゴーストハント2 人形の檻』

ゴーストハント2 人形の檻 (角川文庫) 作者:小野 不由美 KADOKAWA Amazon 読了日2023/05/21。 “人形”と“幽霊屋敷”という二大テーマを複雑に融合させ、当初はポルターガイスト現象と思われた怪異が、掘り起こすに連れて思わぬ因縁を露わにする。第2巻に入り探…

小野不由美『ゴーストハント1 旧校舎怪談』

ゴーストハント1 旧校舎怪談 (角川文庫) 作者:小野 不由美 KADOKAWA Amazon 読了日2022/12/26。 解説で池澤春菜が述べているように、超常現象を扱うオカルトと論理性を重んじるミステリは意外に相性が良い。この怪異/事件の原因/犯人は?と追及していく面…

坂口䙥子のラジオドラマ

古本屋で手に入れた『熊本放送』1963年8月号に坂口䙥子の随筆「私と熊本放送」が載っていた。RKK(Radio Kumamoto Kabushikikaisya)創立10周年を記念した各方面の著名人による寄稿中の一篇。 熊本放送劇団の第1回放送が、坂口の「妻の旅路」というラジオ…

映画「タクシー・ドライバー」「キング・オブ・コメディ」

映画「ジョーカー」に影響を与えたマーティン・スコセッシ監督・ロバート・デニーロ主演の「タクシー・ドライバー」(1976)「キング・オブ・コメディ」(1982)を立て続けに見た。 極言すれば、両作に共通するのは、鬱屈した感情を抱く主人公が、現状打破の…

映画「JOKER」:誰にも愛されなかった男

以下盛大にネタばれする。 US版予告は、ある“ストーリー”の予感を見る者に抱かせようとしている。 00:16~母の世話をするコメディアン志望の青年が、00:25~周囲の悪意に翻弄され、00:39~静かに怒りを溜め込んでいた。00:46~そんな貧しい生活にもささや…

中島敦「巡査の居る風景」:意識されない支配の中で

辺見庸がブログで中島敦に触れていた。既に該当記事は消去されているようだが、中島が一高生時代に書いた習作「巡査の居る風景 ―一九二三年の一つのスケツチ―」についてだ。 ◎「巡査の居る風景」のことなど 「巡査の居る風景」よむ。またおどろく。たじろぐ…

「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を見た

ハリウッド版「ゴジラ」続編 映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」予告編が公開 ラドン、モスラ、キングギドラの姿も

“町の本屋さん”の存在価値

『東洋経済新報』2018年9月30日、中村陽子氏の記事「札幌の小さな本屋が見せた大きな「奇跡」 くすみ書房のオヤジが残したもの」より。 くすみ書房は札幌市内にあった、“町の本屋さん”という呼び方がぴったりの書店。二代目店主の久住邦晴氏は、経営不振による…

敗戦の日に:ホミ・バーバ「ナラティヴの権利」

「世界市民」「コスモポリタン」という言葉は、ともすればどこにも地に足のついていない空理空論の立場として揶揄的に扱われることがあるのだが、バーバは地域性・特殊性を切り捨てることなく、しかも同時に市民・人権といった概念が切り開いた普遍的・共訳…

東京オリンピックと戦時下日本の共通性

文春オンライン2018/07/31の辻田真佐憲氏の記事「「暑さはチャンス」なぜ東京オリンピックは「太平洋戦争化」してしまうのか?」より。 猛暑の日本列島で、東京オリンピックはいよいよ「太平洋戦争化」しつつある。五輪組織委員会の森喜朗会長は、インタビュ…

山崎雅弘『[増補版]戦前回帰 「大日本病」の再発』

〔増補版〕戦前回帰 「大日本病」の再発 (文庫) [ 山崎雅弘 ]価格: 946 円楽天で詳細を見る 第二次大戦下の日本について批判的に検証した本は枚挙にいとまがない。だが本書の特徴は、当時刊行された文献をできるだけ多く引用し、そこにどのようなロジック…

「アール・ブリュット」の衝撃

先週6月30日、たまたま滞在先の大阪鶴橋のホテルで見たNHKのETV特集「人知れず表現し続ける者たちⅡ」を見た。登場するのは郗万里絵・戸谷誠・平野智之ら三人の作者。いわゆる画壇で華々しく活躍する有名作家ではなく、それぞれが歩んでいるユニークな人生と…

山代巴編『この世界の片隅で』

広島市在住の高雄きくえ氏による「『この世界の片隅に』閉じこめられる日常」(『WOMEN'S DEMOCRATIC JOURNAL femin』2017/7/15)より。高雄氏は、広島で「ひろしま女性学研究所」を運営しているフェミニストである。 つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナ…

レヴィ=ストロース「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。」

通勤途中の坂道で、珍しい鳥の鳴き声を聞いた。今まで聞いたこともないような張のある声で、残念ながら種類までは分からなかったが、季節の移り変わりを感じた。帰宅後、歳時記を繰ってみたが、やはり分からない。「早春に平地で囀り始め、気温の上昇にとも…

「芸術はすべて心である〜知られざる画家不染鉄の世界〜」

3月4日のNHK「日曜美術館」は、「芸術はすべて心である〜知られざる画家不染鉄の世界〜」と題して「幻の画家」と称された不染鉄(1891-1976)の特集だった(2月の再放送らしい)。 去年の夏、東京で初めての回顧展が開かれ、美術関係者の注目を集めてい…

ハンナ・アレント『人間の条件』

難解を以て鳴るハンナ・アレントの主著。現在ではドイツ語版に基づく『活動的生』も翻訳されており、先に出された英語版に著者自身が手を加えただけあって、かなり表現が分かりやすくなっているらしいが、今回は従来のちくま学芸文庫版による。活動的生作者:…

佐川光晴『牛を屠る』

この本を読み始めたきっかけは一本のテレビ番組である。 くまもと県民テレビ(KKT)製作で、日本民間放送連盟賞優秀賞も受賞した「現場発!第41回 “いのち”を伝える 元食肉解体作業員の挑戦」がそれだ。ここで登場する元作業員の坂本義喜さんは、現在は各地の…

白石嘉治「「もの自体」へ」(『図書新聞』2018・1・20)

実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方作者: ジェームズ・C.スコット,清水展,日下渉,中溝和弥出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2017/09/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る ジェームズ・C・スコット『実践 日々のアナキズ…

トーマス・マン/渡辺一夫『五つの証言』

五つの証言 (中公文庫プレミアム)作者:トーマス・マン,渡辺 一夫中央公論新社Amazon1929年 トーマス・マン「マリオと魔術師」執筆、ノーベル賞受賞。 1930年 9月 ナチ党、国会選挙で12議席から107議席へと躍進し、第二党になる。 10月 マン、講演「理性に訴…

石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』

ヒトラーのようなレイシストが巨大な大衆運動のリーダーとなって首相にまで上りつめた経緯や、ヴァイマル共和国の議会制民主主義が葬り去られ、独裁体制が樹立された過程、さらにナチ時代のユダヤ人の追放政策が未曽有の国家的メガ犯罪=ユダヤ人大虐殺(ホ…

「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」

ノーベル文学賞受賞に合わせて再放送されたのを見ることができた。 この記事は削除されました |NHK_PR|NHKオンライン 最初にイシグロは「私達はなぜ小説を読むのか」「自分はなぜ小説を書くのか」という、小説の存在意義を問いかけ、6つのテーマに沿って…

香月泰男「1945」「私のシベリヤ」

辺見庸『1★9★3★7』で引用されていた香月泰男の文章「私のシベリヤ」が収められた立花隆『シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界』を手に入れた。 1969年、当時29歳だった著者が、58歳の香月の元へ足繁く通い、生い立ちから応召、シベリヤ抑留、帰国までを聞き取…